シャンパーニュ生まれのナディーヌさんは、ディジョン大学で学んだ。醸造技師としての公式認定を受けてすぐにマコンで研修に入り、そのまま研修先の会社に就職した。ブルゴーニュワインに対する関心はその頃から芽生えた。狭く小さな生産地域でありながら、これだけ違ったワインが産み出されるテロワールの妙に心惹かれたのだという。そして3年後、アントナン・ロデ社が醸造技師を募集しているのを知り、スキルアップのために応募し採用された。1982年のことだ。
1990年には、前社長ベルトラン・ドゥヴィヤール氏の抜擢により総括醸造責任者に就任。ドメーヌ・ジャック・プリウールが昔日の栄光を取り戻して甦る大きな原動力となった。こうした功績が認められて、ナディーヌさんは1997年、ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス誌でベスト・エノロジスト・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。この賞の受賞者にはオリヴィエ・ウンブレヒト、ド・ブアール・ド・ラフォレ、マルセル・ギガル、ミッシェル・ロランといった錚々たる造り手達が名前を連ねているが、女性としては初めてのことであり今もたった一人の女性受賞者だ。
「醸造家としてはぶどう栽培から醸造まで全ての工程において、正確で丁寧、注意深く行うことが大切だが、私にとって一番大切なのは葡萄そのもの。如何に良い葡萄を手に入れるかがポイントです。醸造そのものはクラシックで特にかわったことはありません」と、ナディーヌさんは自分のワイン造りを説明する。
栽培・醸造チームに共通するワイン造りの哲学は、「収量を落として最高に成熟した葡萄を使い、テロワールを反映したワインを造る」ことにある。そして、各ドメーヌの収穫日は全てナディーヌさんが決定する。
ネゴスとしてのアントナン・ロデは幾つかの方法で原料を購入している。ひとつは、クルティエに依頼し葡萄の見本を届けてもらい、購入する方法。ブルゴーニュにおいては伝統的なやり方だが、アントナン・ロデ社ではテイスティング委員会で判定し、OKが出た場合だけが購入の対象となる。一方、ブルゴーニュ・アリゴテやマコン・ヴィラージュ、ミュルソー、ピュリニー・モンラッシェなどの白ワインは果汁の状態で購入している。3番目は契約ベースで葡萄を購入する方法。現在の契約農家数は約20軒で、マコン、コート・シャロネーズ、ボーヌ、ニュイなどほぼブルゴーニュ全域に亘る。農家とは個別に違った内容の契約を交し、栽培チームのスタッフ一人ひとりが葡萄畑に出向き、剪定から収穫に到る栽培の全てを厳密にコントールしている。ドメーヌワインと同じように、こうして栽培された葡萄を使って造られているのが「アントナン・ロデ
カーヴ・プリヴェ」だ。
ところでドメーヌ・ジャック・プリウールのコート・ド・ボーヌの畑では、2000年からビオロジックが完全に実践され、さらに次のステップへの発展が模索されている。「伝統的な栽培法からクリュトゥール・レゾネ、ビオロジックへと発展させることはそれほど難しくありません。しかしさらにビオディナミへ移行するとなると、ことはそう簡単ではない。例えば月の動きに合せていつ何をするかなど、葡萄栽培にかかわる生活そのものが大きく変わってしまいます。社長やマルタン・プリウールを含めスタッフ全員の思いが一致する必要があります」「私個人はビオディナミを採用したいと考えています。ビオディナミは土壌や自然環境に配慮した栽培法であり、土壌の生命力が豊かになることでテロワールの特徴をワインに表現し易くなるからです。」と見通しを語ってくれた。
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